今週のお題「わたし○○部でした」
私は高校生の時、生物部と文芸部を兼部していました。理系だか文系なんだかわかりませんね。せっかくなので、今回は私の青春ともいえる文芸部について紹介したいと思います。
「文芸部って何するの?手芸とか?」
これは私が現役文芸部だった時代に、自分の部活名を言うとよく言われた言葉です。確かに、文芸部ってあまり聞いたことがない部活名だと思います。
文芸部とはその名の通り文芸作品を創作する部活です。小説、詩、短歌、俳句、エッセイ、文芸であればジャンルは問いません。
私の所属していた文芸部では主に年に三回の部誌を作ることを目的とし、不定期に活動をしていました。部誌とは、部員たちの作品を一つの雑誌にまとめたものです。出来上がった部誌は校内の目につきやすい場所に積まれ、誰でも自由に持っていくことができるシステムになっていました。
主な部誌づくりの流れは
①プロット・企画会議
②各々締め切りまでに作品を執筆
③一次合評
④更に執筆
⑤二次合評
⑥製本
という流れです。この合間に毎回恒例の座談会や企画の収録を行います。それぞれの行程について、思い出を語りつつ紹介していきたいと思います。
①プロット会議
まずプロット会議ですが、これは作品のタイトル、あらすじ、設定、助けてほしいことなどを記入する紙に各々の創作の構想を書き出して持ち寄ります。そして、一人ずつプロットを見て行って、部員たちがコメントをします。
特にマイナスな感想が出ることはなく、みんな「すごい!面白そう!」とか「こういう設定があったら面白いよね」などその作品に対する期待を語ります。
また「助けてほしいこと」の欄には主に「この情報が欲しいけどどう調べたらいいのかわからない」ですとか「こういう作品は初めてなのでどう書いたらいいか不安」といったことが書かれます。そういった声に対しては、部員たちがそれぞれの読書体験をいかして「こういう本があるよ!」とか「こういう作家さんが似たものを書いているから参考にするといいんじゃない?」などのアドバイスをしてくれました。
プロットはしっかり登場人物の設定や話の流れを書く部員もいればこういうジャンルが書きたい程度にふんわり書く部員など様々な部員がいました。
私はどちらかといえば、こういうの書きたいな~とふんわりしたことだけ記入した余白だらけのプロットを提出するタイプでした。他の部員たちもコメントに苦労したと思います。
自分はほぼコメントに困るようなプロットを提出しておきながら、私は他の部員たちのプロットを見るのをいつも楽しみにしていました。
文芸部のメンバーは皆個性あふれる創作魂の持ち主で、毎回私には思いもつかないようなシナリオを持ってきます。私はプロット会議の度にみんな次はこういうのを書くんだ、楽しみだなとさながら好きな作家の新作を待つようにわくわくした気持ちで他の部員の最新作が読めるのを楽しみにしていました。
②各々で作品を執筆
プロット会議が終わると、第一次締め切りまでそれぞれ執筆作業を行います。基本的にはプロットでこの話を出したからその通りに書かなければいけないということはありません。作品の提出も強制ではないので、どうしても何も思い浮かばなければ部誌に作品を掲載しなくても問題ありません。
しかし、何も掲載しないというのは文芸部部員としてプライドが許さぬもの。授業を聞くのに飽きた時間や帰り道を歩きながら等、隙間時間に必死で構想を練り、ある程度執筆出来るまで固まったら学業の合間を縫って執筆にいそしみます。時には、筆が乗り、次の日も学校があるというのに深夜2時を回ってもパソコンに向かい続けるということもありました。
執筆は自分との孤独な闘いです。最初の数行のみしか書けず、一次締め切りを迎えることもありました。しかし、それでも問題ありません。困ったときは文芸部の仲間が助けてくれるのです。
③一次合評
締め切りまでに顧問の先生に作品を提出したら次は一次合評です。顧問の先生が人数分印刷してくれた部員たちの小説をそれぞれ読み、感想を言い合います。締め切りに間に合わず、自分で小説を印刷してくる部員もいました。
主な流れは1作品ごとに全体の感想を部員が一人ずつ言った後、1ページずつ作品を見て行って、細かい感想や指摘をするというものです。
入部した当初は自分の作品がこんな丁寧に読まれるなんて……、と恥ずかしい気持ちがありましたが、後にこの合評の時間が文芸部の活動で最も楽しい時間になりました。
自分の作品を読んでもらい、他の人がどう感じたのか生の声を聞くことが出来るのです。ここの表現がいいね、この設定がいいね、ここはちょっとわかりづらいかも、等自分が自身を持って書いた箇所を褒めてもらえたり、自分では気づけなかった作品の欠点や誤字等に気づいてもらうことが出来ます。こんな貴重な経験は中々ないでしょう。
自分が読者側として、他の人の作品を読んで「良い!」と思ったことを直接作者に伝えられたり、作者の口から直接書かれていない裏設定を知ることが出来たりするのも魅力の一つでした。時には「この登場人物すごくいいね!こういう動かし方もできるんじゃない?」「この世界観いいね!こういうことが起こりそう!」など作者より読者同士が作品の設定や登場人物について熱く語ることもありました。
もし、数行しか書いてない作品の場合でも部員たちが協力してくれます。「こういう話にしたいけど展開が思いつかない」などの相談についてみんなで考え、「こういう展開にできそうだよね」「こういう登場人物がいたらいいよね」と創作のヒントになるアドバイスを出し合いました。
作品は個人個人で作るものですがこういった活動の内容から、文芸部で作った作品は私だけでなく部員のみんなで作り上げたものだと思っています。
④更に執筆
一次合評を踏まえ、完成に向けて更にそれぞれの作品を執筆します。一次締め切りまでには何も思いつかなかったとしても、一次合評で部員たちから意見をもらったことでアイディアが突如として降りてくることもあります。もし降りてこなくても、この期間にある程度書き上げないとどんどん苦しくなっていくので、駄文でもなんとかアイディアを絞りだして物語を書き出します。
⑤二次合評
流れは一次合評と同じです。一次合評では思うようにアイディアが降りてこなくても、この段階でほぼ完成に近い状態で作品を提出する部員もいます。中には、一次合評からガラッと内容を変えたものを提出する部員もいます。より良い作品の完成に向けて、更に濃い意見の交流が行われます。
⑥製本
間に企画や座談会の収録もあるのですが後ほど紹介するとして、最後の締め切りを迎えると今度は顧問の先生ではなく、それぞれのコーナーの担当者に原稿を送ります。
原稿が送られてきた担当者は、タイトルをつけたり体裁を整えたりなどして原稿をまとめ、編集長を担当している部員に送ります。編集長はページ数や奥付、表紙などを作り、最終的に部誌の形にまとめます。出来上がったものを部員みんなでチェックし、問題がなければ製本作業に移ります。
製本作業は肉体労働です。私たちの部誌は全て手作業でページを重ね「和綴じ」という伝統的な本の綴じ方で部誌を作ります。表紙と裏表紙も紙屋さんに自分たちで買いに行き、選ぶというこだわりの部誌です。
机を並べ、その上に部員たちの力作が印刷された紙の束をページ順に置きます。そして部員みんなで机のまわりをぐるぐる回って紙をページ順にまとめていきます。
ある程度まで紙の束が作れたら落丁がないかの確認をします。無事検査を通過できたら、次は糸で綴じるための穴をあけます。これもドリルパンチを使い、手作業で行っていきます。
ページ数が多いときは大変です。紙がずれないように注意しながらぐりぐりぐりと力を込めてハンドルを回していきます。 時には二回に分けて穴を空けることもありました。
穴が空いたらいよいよ最後の段階です。苦労して空けた穴に糸を通し、和綴じにします。部誌の保存状態に関わる大事な作業です。緩んでページがずれてしまったり、結び目がほどけて部誌がばらばらになってしまわないようにきつめに部誌を編んでいきます。
この作業も何日もかかることがあります。時には休日も登校してページを合わせる作業を行うこともありました。大変な作業でしたが、基本的には自由な空間なので部員たちとお喋りをしながら机のまわりをぐるぐる回るのも楽しいひとときでした。
そうして完成した、部員の力作が勢ぞろいの部誌は階段の踊り場や各階のホールに置かれ、生徒や教師、来賓の方々に自由に手にとってもらいます。読んでくれた友人から「あなたの作品面白かったよ!」と言ってもらったときは心の中でガッツポーズをしました。
以上が文芸部の活動の主な流れになります。最後に、後ほど紹介すると記述していた部誌の企画と座談会について紹介します。
部誌では、毎回企画ページと座談会が収録されることになっています。
どんな企画を行うかはその時の会議で決まります。部員それぞれが執筆し、通常の作品のように合評も行う2ページ小説やテーマエッセイ。座談会形式で収録される大喜利、句会や歌会、ビブリオバトル。実際に部員皆で遠出をし、見た物や感じたことをそれぞれ綴る文芸散歩など様々な企画が行われました。
特に私が好きだった企画は2ページ小説です。これは、毎回夏の部誌で必ず行われる企画でした。毎年テーマを決めて、そのテーマにそって2ページで小説を書くのです。
2ページという制限の中、どう起承転結をつけてどうテーマを取り入れるのか。構想を長編小説を書くのとは違う新鮮な感覚で練っていました。自分はこのテーマからこういう話を思いついたけど他の部員はどんな話を書いたのかな?と他の部員の作品を読むのも楽しかったです。
座談会は毎回、部誌の最後に収録される企画でした。こちらも毎回テーマを決めて、みんなでそれについて語り合い、その会話を録音して文字に起こします。
これは実際に会話を聞いているようで読んでくれている方も楽しいと思います。また部誌に収録されている作品を書いた部員たちがどんな人たちなのか知ることができ、親近感が湧くという点でも、とても良い企画ページだと思っています。
実際、私も入学前に学校見学で後の母校を訪れ、部誌を持って帰ったことがあります。そして先輩方の小説はもちろん、座談会のページを読んでこんな人たちがこの学校の文芸部にいるんだ!楽しそう!私も入りたい!と文芸部への期待に胸を躍らせた経験があります。
部員側としても座談会は良い思い出になります。今でこそ、思い出は動画で残すのが主流になっていますが、当時はそこまで動画が普及していませんでした。(動画で思い出を残している人たちもいたかもしれませんが、私たちはそういうタイプではありませんでした。)
毎日忙しない日々を過ごし時を重ねていく中で、学生時代の友人との会話でしっかりと覚えられているものはいくらもないと思います。しかし、何年経っても座談会のページを開けば当時の思い出が鮮やかに蘇ります。
どんなにその時のことを忘れていても、思い出の動画を見るように、ああこんな会話したなあ、こんなことしてたなあと当時の仲間たちの声や表情、身振りを色濃く思い出すことができるのです。そのような点でも、いい経験をしていたなあと思います。
以上が私が学生時代に所属していた文芸部の話になります。創作意欲を持つ者同士が集まり、活発に意見を交わし合い、互いに切磋琢磨し合った時間は私の青春そのものでした。そんな素晴らしい高校生活を送れたことに、かつての仲間たちには感謝しかありません。
他にも各地域の学校の文芸部が集まる大会や、この文芸部での経験を踏まえて大学でも文芸に関わる活動を行った話もしたかったのですが、思ったより長くなってしまったので、またいつかの機会に書くことにします。ここまでお読みいただきありがとうございました。